第9回世界鍼灸学会連合会ハノイシンポジウム
1999年11月9日〜11日


「胃兪」穴と坐骨神経痛について

日本国 東方鍼灸院 吉川正子

■はじめに

「胃兪」穴を使って、坐骨神経痛を治療した報告はこれまでにない。坐骨神経痛の患者の多くに、背部兪穴の「胃兪」に著明な反応(圧痛、陥下、硬結等)が出ており、この「胃兪」穴への施術は治癒への期間が大幅に短縮され、効果が著しいので報告する。

■方法

坐骨神経痛の症状は、膀胱経、胆経、及び胃経に出ることが多い。「胃兪」は膀胱経に属するが、胃の「兪穴」でもあるから胃経の調整もできる。「胃兪」への施術後、即時に臀部より下肢へかけての症状(痛み、痺れ、冷え、筋緊張等)が消失、叉は緩解する。患者には、早食い、大食、冷食を厳禁する。

●症例1 女  49歳  主婦 初診 1999年1月28日

主訴 右臀部より下肢後外側及び下腿後内側へかけて、痺れ、痛み、冷える。
初診時所見及び経過 1998年5月より痛くなり、病院、マッサージ、カイロ等で治療を受けるも治らず来院。自発痛、動作時痛激しく、立っていられない。左膝前内側痛(軽度)、右手浮腫(朝増悪)、便秘尿少。脾腎陽虚。
太白、復溜、三陰交、足三里で腹部を改善した後、胃兪へ鍼と灸。足が温まり、臀部より下肢へかけての痛み軽減。25回で治癒。

●症例2 男  54歳  会社社長 初診 1999年7月5日

主訴 左臀部より下肢外側にかけて、痺れ、痛み。
初診時所見及び経過 1999年3月より痛くなり、病院、鍼灸、カイロ等毎日通院するも治らず来院。特に、朝ひどく一人で立ち上がれない。静止時痛、歩行時痛あり。舌やや紅、苔やや厚、黄。食欲二便、睡眠正常。以前、胃酸過多による腹痛、鬱証の既往歴あり。肝脾の変調。
太衝、太白への切皮程度の鍼、期門、中Aへの温灸で腹部の反応を消去。右内関、曲沢で左胆経の痛み消去。左脾兪、胃兪部に陥凹あり。鍼刺入後左臀部の圧痛消失。陥凹部に鍼の後、直接灸にても初め熱感なし。多壮灸にて陥凹改善。4回で症状半減。最終的に、胃兪への灸で熱感を感じるようになり、15回で治癒。

●症例3 男  67歳  建築業 初診 1999年7月2日

主訴 3日前より、左臀部より下肢にかけて痛くなり、立座時痛、歩行時痛有り。ラセーグ陽性。
初診時所見及び経過
他の鍼灸院で治療受けるも、全く変化なく来院。左臀部より下肢へ灸痕あり。両足の冷え甚だし。舌暗、中央少苔。
太衝、太白、足三里へ鍼、期門、中Aへ温灸で腹部の状態を改善する。背部の胃兪に著明な圧痛、陥凹あり。施灸後、足が温まり症状緩解。2回で治癒。

■結果

坐骨神経痛の患者183人(年齢17歳~87歳)、平均55.1歳、病歴1日~20年(1年以上が50%以上)。治療回数1回~34回、平均11.06回。胃兪穴の反応は162人(89%)にあり、治癒116人(71%)、有効37人(23%)、無効又は不明9人(6%)であった。183人の証は、脾の変調44人(24.0%)、腎の変調32人(17.5%)、肝脾の変調31人(17.0%)、脾腎の変調31人(17.0%)、肝腎の変調19人(10.4%)、脾肺の変調9人(4.9%)、肝の変調6人(3.3%)、腎肺の変調3人(1.6%)、肝肺の変調3人(1.6%)、脾心の変調3人(1.6%)、肺の変調2人(1.1%)であった。

■考察

百病は脾胃より生じる”飲食の不摂やストレスにより脾胃の機能が低下すると、手足に栄養が廻らなくなる。特に、寒湿の邪気(飲食、外気等)を受けると、経脈が阻滞し、その循行部位に痛みを生じる。坐骨神経痛は、坐骨神経への栄養の供給が不足すると痛みを生じる。坐骨神経痛の患者の多くに、胃の変調を認めるが、胃の病変により臀部へ圧痛が生じる。胃兪への施術後、即時に臀部の圧痛が消失し症状が緩解する。坐骨神経痛の経路は、膀胱経と胃経に一致する。「胃兪」は一穴で、胃の働きをよくし坐骨神経への栄養の補給を改善できるので、本病の根本治療となり、治癒への期間が早まるものと確信する。