世界鍼灸学会連合会バルセロナシンポジウム
1998年10月18日 A.M.9:45 第4会場


陰陽太極鍼法(同名経交叉表裏取穴法)の臨床応用

帯広 東方鍼灸院 吉川正子
秋田 大成鍼灸院 加藤 均・小野寺尚子

 

■目的

痛みの治療に〈内経〉以来、巨刺、繆刺、同名経上下取穴法などがよく知られている。私どもはこれらの方法に更に改良を加え、痛みの部位と対角線上にある手足の表裏経の裏側の穴位を取穴する方法を独自に開発した。この方法は上下左右の陰陽のバランスを調整できるだけでなく、全身の陰陽も一穴で同時に調整できる。この治療法を陰陽太極鍼法(陰陽交叉鍼法)と名付けて、臨床に広く応用し、極めて優れた効果を得ているので報告する。

■方法

まず痛む部位が何経に属するかを調べる。穴はその対角線上にある。例えば痛む部位が右足の少陰腎経の太谿の部位にあれば、左手の太陽小腸経の養老となる。左手は右足と対角線上にあり、少陰経は太陽経と表裏である。刺鍼得気後、痛みは即時に緩解する。なお、寒熱、虚実は手技を考慮する。

●症例1 女 55歳 陶芸家 初診/1998年1月10日

主訴 左足関節の丘墟部が腫れて痛い。
特に捻挫したこともなく、2〜3日前より痛くなった。
初診時所見及び経過 顔面に軽度の浮腫あり。舌質暗紅、舌苔白やや厚、脈渋、腹部の期門、日月、背部の肝兪、腎兪に圧痛あり。本治法の後、標治法として右大陵穴へ刺入後足関節を動かさせると、腫れが少しひき動きが楽になる。1回で治癒。1月21日別の治療で再来院時足は全く良いとのこと。

●症例2 女 57歳 酪農業 初診/1997年10月28日

主訴 左膝内側痛
初診時所見及び経過 12年前より膝が痛くなり、変型性膝関節症と診断され注射、湿布、鍼灸等続けるも治らず。痛みは固定痛、刺痛、発赤、腫脹、夜間痛、自発痛あり。打撲の経験もあり、天候により悪化する。舌質やや暗紅、中央に浅い裂紋多数、舌下静脈怒脹、痛みの部位より脾経の湿熱痺症で 血もからんでいる。
太陰脾経と同名経の右手の太陰肺経の表裏経であるである陽明大腸経の曲池を取穴し、透天涼の手技を行うと左膝の熱がとれて楽になった。その他、章門、三陰交、脾兪など若干のツボをとり、本人に梅花鍼で毎日叩刺するように指導。現在、長年の苦痛より解放され日常生活に支障がなくなっている。

症例検討

●症例1

太陵穴は手の厥陰心包経の原穴で患部の丘墟部は厥陰経と表裏の関係にある。上下、左右、表裏のバランスがとれて治癒したものと思われる。また、手の厥陰経は足の厥陰肝経に相接しており、肝は筋を主るので、肝経の調整も同時に行なえるので、より効果が強いものと思われる(接経の主治作用)。

●症例2

曲池は手の陽明大腸経の合土穴であり、土は火の子で瀉穴であり、清熱作用がある。また、表裏の太陰経を調整する作用があり、太陰経は湿を利する作用があるので、湿熱、痺症には特に有効なツボである。また、手足の肘・膝は対応関係にあり、物理的にもバランスがとれる位置にあるので、効果が高いと思われる。

●結果と考察

この方法は種々の痛みに適応できる。ほとんど全ての痛みが消失・軽減し、治癒への期間が短縮できた。これは経絡が陰陽を調整するという、古典理論が正しいことを証明している。この方法は、これまでの左右、上下に表裏という概念を加えることによって、全身の陰陽のバランスを最大限に調整できるようになったのだと我々は確信する。